ルンルの会
Death&Birth
社員の死と
後継者の誕生

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プロローグ
 3年半東南アジアを放浪していた長男が昨年の秋に帰国して関東でアルバイトをしていたのですが、12月に入ってひょっこり家に帰ってきたかと思うと「うちの会社に入りたい」と唐突に切り出しました。今のところ空いた席は無いけど、5月の連休過ぎになったら専務に営業の第一線から退いてもらうとするか、それ迄は何処かに行っておいでと告げました。 そうは言ったものの、一人増えると無借金経営への道が遠くなるなと少し戸惑ってしまいました。
  「そんならバンコクでコンタクトレンズを買ってからインドでも回ってくるわ」と数日後に再度出国しました。
社員が倒れた
 12月27日夜、明日で仕事の打ち上げです。28日の午前中は掃除をして12時半に中華レストランから迎えの車が来ます。のんびりとPM12時頃までパソコンを弄ってから床につきました。AM2:00、突然電話が鳴りました。
  こんな時間に・・・酔っ払いの間違い電話だなと思い不機嫌な声で「モシモシ」と言いました。 聞こえてきたのは女性の声で、「お宅に勤めているH君が救急車で病院に運ばれて危険な状態なんです」と思いがけない話です。
  なんだか変な喋り方で、社員のHと何処かのホステスさんが酔っぱらって悪戯しているのだと思いました。「エー何ですか」と大きな声で聞くとプチンと切れてしまいました。「なんか悪戯電話みたいやわ」と目が覚めた妻に言いました。

くも膜下出 血
 5分後また電話がかかり、今度はしっかりした口調で「Fと申します、H君と一緒にお酒を飲んでから家に行ったのですが、お風呂から上がってテレビを見ていた彼が、突然意識を失って倒れてしまいました。すぐに救急車を呼んでO病院に運びましたところ、くも膜下出血で非常に危険な状態なのですぐに家族を呼んで欲しいと言われました。親元の連絡先は分からないし、勤めているところは知っていたので電話しました。どなたか身内の方の電話はご存知ですか」・・・すぐに近くに住んでいる彼の姉と専務に連絡し、妻と4人で病院に駆けつけました。その時点で電話の女性の姿はありませんでした。応急的な手術をしていると一時間ほど待たされて、執刀医から告げられたのは、脳の全ての襞に血が回っていて最悪の状態だと言う事実です。たとえ助かっても社会復帰できるかどうか難しいとも言われました。面会も身内以外は認められていないので、お姉さんを残して帰ることにしました。明日の打ち上げ懇親会は中止にしようかと専務が言いましたがそれでは彼が死ぬと決まっているように皆が思うし、彼の無事を願って予定通りやろうと言いました。

息子に連絡
 次の日、何処にいるか分からない長男宛てにマイクロソフトのHotMailで文章を流しました。簡単ないきさつと、すぐに帰っておいでをシンプルに書き込みました。一時間後、ノートパソコンの蓋を開けると「分かった、今ラオスにいるけどすぐに飛行機の手配をしてみる」と返事が返ってきました。 不安そうに見ている社員さん達に、「すぐに帰国するて言うてるわ」と告げるとぱっと安堵の表情が走りました。この調子ならHさんの手術もうまく行くかもしれないねと皆に笑顔が戻りました。懇親会から帰ってくると、病院に駆けつけたHの家族から「手術が成功したみたいで、まだはっきりと意識は戻っていないけど手足を動かしています」とうれしい電話がありました。 3日後息子から電話がかかり「成田についた、 5日の出勤日迄こっちで友達と遊んでるわ」と元気な声が流れてきました。
成績好調
 営業周りを始めた息子はものすごい勢いで注文を取ってきます。倒れたHは要領は良いのですが面倒な注文は避ける方なのであまり成績は芳しくありませんでした。日々のグラフはぐんぐんと伸びていき、目標値を突破して更に上にくっついたかと思うと横に折り返しました。こんなことは担当している地域では前代未聞です。「結構面白いな」とニコニコしています。瞬く間に10日間が過 ぎました。
Hが死んだ
 病院からは連絡が無く、こちらも忙しかったので順調に回復しているものと思い込んでいました。1月16日にHの郷里のお兄さんが突然訪ねてきて「今日明日が山と言うことでこれから病院に行きます」と思いがけない話です。
  次の日の昼前に「午前10時40分息を引き取りました」と電話が入りました。一日置いて通夜、告別式の受付で慌しい2日間が過ぎました。地方の資産家 の次男坊で、東京の有名私立大のインド哲学を卒業したHは親族の間では我侭な勝手者と認識されていたようです。けっこう営業先で好かれていたのですよと、通夜の受付に持ち込まれたお客様の有志が回復を願って折ってくれた千羽鶴を見せても「へ〜あいつがちゃんと仕事していたとは信じられない」と皆さんが驚いていました。
エピローグ
 今は何事も無く会社は回っています。と言うより息子がハイペースで注文を取ってくるので先輩達も刺激を受けて全体が活気付いています。取引先のメーカーからも「良い後継者が出来ましたね」とお悔やみと同時にうれしい言葉をかけていただけます。意識が顕在世界の現実を創るとしたら、これは無意識で思っていたことが現実化した出来事なのでしょうか。今の時点では中陰にいるHが様々な悪戯を仕掛けてくるので、書いて欲しくない文章は全部消されてしまいます。 あちらの世界でも、結構楽しんでいるようです。

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