飛べば見える
矢山利彦

ホームページTOPへ

矢山利彦氏写真

KIWI 1992年10月

密教の技術を気功法として研究する矢山利彦氏。 1200年前の偉大な思想家『空海』、自らを光輝く金剛身とした 実践家『空海』が残した密教を気功法にアレンジして、人間の 中に眠った能力を目覚めさせる方法を具体的に伝えてくれる。 長年にわたって君臨してきた西洋文化は、一貫して男性的・ 膨張的・積極的・競合的・合理的・分析的、という『陽』を偏重し、 女性的・収縮的・保守的・協力的・直観的・総合的、といった 『陰』を切り捨ててきた。それが、経済を始めとする様々な人間の 活動に、支障・矛盾を引き起こし、現実としての危機を生み出した。

今、21世紀を前に西洋機械科学が限界にきて、世界観、価値観の 基調はエコロジカルな東洋思想に傾いている。 外科医である傍ら、東洋医学診療部長の肩書きを持つ矢山氏は、 西洋的な世界観と東洋思想を医学の分野で効果的に合致させて 実践している。このように、二つの相反する概念を結ぶのが、 氏の発想法。『空海』あるいは、『密教』への取り組み方も同様である。 注目すべきは『方法論』として展開されていることだ。 どうすれば人間性を向上させることができるのか=どうすれば 飛べるのか。その飛び方が具体性を持っていなければ、単に教えの 世界を覗かせるに過ぎないが、「どうやって」「どうやって?」と誰でも 飛べる方法を追求し、「飛んだほうが楽しいよ」「一緒に飛ぼうよ」と 語りかける氏の言葉は、空海の思想そのものである。

教えを聞くのですか?飛ぶのですか?
この夏、宮崎駿さんの『紅の豚』という映画を上映していましたが、 その宣伝文句が「飛べば見える」。これは今という時代の背景を 非常にうまく表現しています。そして、これからお話ししていく空海の 思想にぴったりの言葉でもあります。私は何とか病人を治したいと いう思いから、西洋医学を実践する一方で東洋医学、その核心で ある『気の医学』を研究してきましたが、冗談で「気功法の師匠は 空海さんだ」と言っています。空海は去年『曼陀羅』という映画も あって静かなブームともなり、その生涯についての知識はあるものの、 さて、どういうことをした人か、どういう思想、技術に優れた人か、 ということになるとほとんど知っている人はいません。日本人なら 誰でも「偉いお坊さん」とは答えることができますけれど……。 それは、密教という彼の残した偉大な遺産を、プロの僧侶が一般に 伝えていないからです。しかし、「そうなる」ことを求める密教の 具体的な方法論こそ、今、時代が求めているものだな、

「飛べば見える」この言葉に触れて、そう直感しました。 さて、飛んだ人が見た風景を伝えるのが、『教え』の世界です。 しかし、教えの世界は飛んだ人によっては砂漠の光景かも知れず、 高い山を見てきたのかも知れない。モノの見方にフィルターが かかります。その光景は通常『文化』と呼ばれていますが、真の内容 が共通していても、教えの世界は文化的な背景で表現が変わり、 それがほとんどの宗教的な争いの発端になっています。 見てきたことを話すのが教えの世界であり、仏教では『顕教』(明らかに 説かれた教え)と言いますが、これからは自分が飛ぶ時代です。

それが顕教に対して『密教』と言われます。顕教、密教というのは、 日本では空海によって明確にされた教判上の概念です。 空海さんは密教の中に、どうすれば飛べるのか、その方法論を 具体的に残してくれています。「どうやるの?」という方法があり、 必ず出来るものであること。こういう発想は、私が長い間やってきた 武術や外科医としての発想と同じで、それは私にとってとても大切な ことです。たとえば外科医としての私は、胃を切開して腫瘍を取り除くと いった手術をします。そのためには、どうやるかという方法が明確にあり、 しかも完壁にできなければなりません。それは技術の世界であり、 武術家や外科医は言ったことができなければならない世界に住んで いると言えます。

「飛べば見える」。どうやるの?どうやって飛ぶの? 方法は?と求めながら空海を読むと、実践方法が見えてきます。 彼は『弁顕密二教論』の中で次のように問いかけています。 「あなたは教えを聞くのですか?それとも、そうなるのですか?」 飛んだ人の話を聞くのですか?自分が飛ぶのですか? 飛んだほうがいいですよ。一緒に飛びましょうよ。精神の飛翔を求めるの なら、こんな方法がありますよ……と展開していくのが『即身成仏義』と いう空海の精神の技術書です。成仏という言葉は、「死ぬ」ことと解釈され がちですが、それは顕教の教えで言う『来世成仏』です。 空海は、この身、このままで成仏できると言いました。生きながらに 仏になる、ブッダになる、つまり人間として完成することを『即身成仏』と 表現しています。我々は、この肉体を持ちながら人間性を高め、完成して いくことが出来るのですよ、飛ぶ方法があるのですよ……。 それが今、世の中で注目されつつあるのではないかと思います。

どうすれば、そうなりますか?

では、どうすればいいのか?その方法が、密教のシステムです。 密教はむつかしいと言われていますが、エッセンスを理解すれば、 あとはおのずと分かります。密教は大乗仏教の最後に出てきた 流派です。自分自身を高めていくことを主とする小乗に対して、 仏に救いを求めていくのが大乗。大きな乗り物に乗って、浄土への 旅に出る、そんな意味です。大乗仏教を超えた密教は『金剛大乗』 ですから、ダイヤモンド級の、超高速の乗り物で行く旅です。 目的地の『即身成仏』まで、『気』という燃料で動く『法力』という名の 自動車で行きますが、『三密加持』という運転技術を身につけなければ、 車を動かせません。密教の言葉は難解ですが、このように身近な ものに例えると分かりやすくなりますし、論理的であることも納得 できます。

法力という意識のエネルギーを、三密加持という方法で動かすと、 即身成仏の境地に至るということです。「人間性を高める」を簡単に 言うと「アタマをよくする」です。誤解を生みそうですが、先日こんな ことがありました。ある青年が、「先生、神様はいるのですか?」と私に 聞くのです。何と答えようか、と思ったのですが、「オレはそんな質問には 答えない」と言いました。すると「どうしてですか?」と言うので「オレが 神様がいると言ったら、君は証拠をみせろと言うだろう? いないと言うと、いたほうがいいとか、いないとつまらないですねとか 言うだろう?だから答えないほうがいいんだ」。「では、どうすれば いいんですか?」「いるとかいないとか分かるようなアタマになったら いいんだよ」。そういうことが「どうもそうらしい」と分かるアタマになれば いいのです。「じゃあ、どうすればそういうアタマになりますか?」ということ ですが、その方法が気を体得し、さらに三密加持という技術を使って 脳を高度化していくことです。

アタマをよくする6つのカリキュラム

『空』という料理を作るコツは『般若波羅蜜多』です。 般若波羅蜜多は六波羅蜜多と言って、菩薩という道を求めて 修業する人に課せられた6つの実践徳目のことで、『六度』とも 言われます。アタマの働きをよくするための「施・戒・忍・進・禅・慧」 (せ・かい・にん・しん・ぜん・え)と言う6つのカリキュラムです。 これは、顕教の教えですから、まだまだ空海さんに追いついて いませんが、とりあえずアタマの悪くなる働きを取り除けます。 非常に分かりやすく、実践しやすく卓効がある方法ですから、 ご紹介します。是非、実践してみてください。

@施=布施(ふせ)波羅蜜 人に何かを差し上げることによって喜んでもらい、 自分の我欲を減らしましょう。なぜなら、アタマを悪くする 大きな原因が我欲だからです。自分が失敗した時のことを 思い出してみてください。我欲に支配された時に失敗しているもの です。我欲が判断にからんでくると、アタマの働きを鈍らせま違いを 生じさせます。どうすればいいか?モノでも金でも、知恵でも言葉でも いいから人に差し上げる訓練をします。

A戒=持戒(じかい)波羅蜜戒律、 決まりを守ることで、自分の反自然行為を減らしましょう。 そう堅苦しいものではなく、自分の良心の声に耳を傾けようよ……。 簡単ですが、なかなか出来ないのが人間です。 私は医者ですから患者さんを診ていて 「夕バコは悪いからやめたほうがいいですよ」と言います。 「先生、わかっちゃいるんですが、やめられないんですよ」 と返ってきます。それは、教えの限界を示してくれています。

B忍=忍辱(にんにく)波羅蜜 辱めを忍ぶということですが、アタマを悪くするものに「このヤロー」 とか「アイツ、オレに意地悪ばかりしやがって」……という怒りや 憤りがあります。これは非常にアタマを悪くします。忍辱は、他人を 出来るだけ肯定しよう、過ぎたことは出来るだけプラスに考えよう、 どうしようもないこと、失ったものは考えまい、ということです。 どうしようもないことをクヨクヨ考えると、てきめんエネルギーが 減ってしまいます。病気になりたい人は、過ぎたことをクヨクヨ考 えてください。まちがいなく、すぐ病気になれます。

三蜜加持とは
三密とは、身・口・意(しん・く・い)の三業が高度化した状態を 言います。 身は、手の働きのこと。 気功をやっている人ならよくわかりますが、手から気を出して 痛みを和らげるようなエネルギーを出すことと、手で気を感じると いう感覚能力のアップです。 もっと高度化すれば、実際に手でさわらなくてもわかるようになります。 口(く)は言葉、音のこと。 言葉を使う脳の働きと耳で聞き取る脳の働き言語中枢と聴覚中枢です。 言葉や音にエネルギーを乗せます。美空ひばりさんが 亡くなる前に「川の流れに」という歌を歌っていましたが、 あれなどは、死を覚悟して悟りの境地になったのでしょうか、 素晴らしいエネルギーを感じます。人を感動させる人、説得できる 人というのは、口(く)を高度化している人です。 意は、見る力、 目の働きとイメージを作る能力。実は、これが最も重要な働きを します。モノを作る手前には必ずイメージがあります。アタマの中の 図面です。この世は、モノを作った人のイメージから出発しています。 強くイメージを描き、それを持続する人がモノを作る人です。

三密加持の『加持』の意味は
加は大日如来という宇宙のエネルギーが、脳の働きを一点に 集中した時人間に加わり、持、すなわちそれを保持するという 意味です。「身・口・意」の高度化された三密が融合し、一点に 集中した時、即身成仏の境地、人間性が極度に高まる状態に なると空海は言っています。 三密、「身・口・意」を使うことが、なぜこうも効果的な方法か。 それは、脳の意識で使える部分を全部使うからです。しかも一度に 一点に集中して使います。ヒトは、目・耳・口・手を使うことにより 脳を動かしています。人間が人間の脳を持っている限り、能力向上 のやり方として、三密加持を超えるものはないでしょうし、 あり得ないです。最近、バーチャル・リアリティ、仮想現実についての 記事を雑誌や新聞で見かけます。これはコンピューターを使って手の 感覚や目の感覚を作り出し、疑似体験するというものですが、 こういう機械を使って三密加持を援助する方法はあります。 そのうち、悟りを開くためのバーチャル・リアリティの機械が 出来るかも知れません……?
手の甲 掌

脳の働きを一点に集中させる

では三密加持をやっていきます。 「手に印を組み、口に真言を唱え、心に仏を観想する」のが本来の やり方ですが、あまり宗教じみていると現代人には抵抗がありますから、 その要素を取り除いて、脳の働きを一点に集中させる方法を伝えます。 「身・口・意」を使ってアタマをよくする三密加持の基本形です。 腕時計を外してネクタイを緩め、体をリラックスさせます。 そして指を図1のように組合せます。右の掌と左の掌を合わせて、 指を噛み合わせ、ギュッと押さえるようにしてこすり合わせてください。 指の股から爪の横まで、掌も、側面もこすります。その時親指と小指が 浮かないようにしましょう。手の側面には血管と神経が通っていますが、 普通ここは刺激されません。20回こすって血の巡りをよくします。 今度は右の掌を左手の甲にかぶせて、手の甲と指の股、横をこすります。 こちらも20回。これだけで手から赤外線が出て、ふわふわします。 気が出ているのです。

同じように、左の掌を右手の甲にかぶせて、20回。 口・意を加えていき、脳の一点集中を体験してみます。 手を開いてジッと見てください。そしてカウントしていきます。 ヒー・フー・ミー・ヨー・イー・ムー・ナー・ヤー・コー・トー。 これを反対からカウントします。声を出してやります。 トー・コー・ヤー・ナー・ムー・イー・ヨー・ミー・フー・ヒー。 逆にカウントしていくのは、普通の状態ではないので意識が 集中するからです。カウントに合わせて、右の親指から折って いきます(図2)。トーで右手の親指を折り、コーで人差し指を折ります。 右から順番です。右手の指を折ったら、イーで左手の小指を折ります。 そして、薬指。右から左に折っていきます。両方の拳ができたら、 やはり右の親指から開いていきます。じっと手を見ながら やってください。いつもは見慣れた手ですが、人間たるゆえんの手。 親指1本を折るために、足1本を動かすほどの神経を使っています。 こうやって、何度も指を折るのと、開くのを繰り返してください。 次は目をカメラにします。『意』の部分です。トーとカウントしたら、 右手の親指を折る時、ジッと見てからパチッと目を閉じます。 目を閉じた時に、今の状態が一瞬浮かびますから目に自分の手を 焼き付けてください。コー。人差し指を折って、じっと見て目を閉じて 焼き付けて目を開ける。ヤー。中指を折って、じっと見て、目を閉じて 焼き付けて目を開ける。ナー・ムー・イー・ヨー・ミー・フー・ヒー。 今度は開きます。

今のぺースで同じようにやっていきます。 トーで右手の親指を開いてじっと見て目を閉じて焼き付けて目を開ける。 目をカメラにしたと思ってください。 肩の力を抜いていますか?肩の力を抜くいい方法は、大きく息をすって、 口でハーと吐いて続けてフーと吐いてフッフッフー。 「ハー・フー・フッフッフー」力を抜くコツです。ここまでは予行演習です。 では、三密加持に入っていきます。瞼を閉じて、頭の中にテレビを 思い浮かべて、そこに自分の手が映っているとイメージします。 人間の目は、閉じた瞬間に見るのをやめてしまうので何かを イメージしにくいのですが、手は動きの一つひとつが脳に伝わって きますから、イメージしやすいのです。いいですか?目を閉じて、 頭の中のテレビに映った手の指を、心の中のカウントに合わせて 先程のように折っていきます。両方の手の指を折ったら、開きます。 その時肩の力を抜き、脇を緩めて少し開くと、気が出やすくなりますから もっと効果的です。何度も繰り返して練習すると、そのうちすぐに頭の 中のテレビに鮮明に像が描けるようになり、手の動きもリアルになります。 自分の手が実際は握っているのか開いているのかわからないまでに なります。握っている手がもう一本あるように感じられたり。 ものすごいイメージ力です。どっちがどっちか分からない。 イメージが本当なのか、実際はどうなのか……。 感覚中枢とイメージが結びつくからです。 これは、脳が非常に統合された状態です。

ヨーガの行者もびっくり

ここで実験をしてみます。ボールペンで左腕に直径5センチ ほどの円を書きます。ここに三密加持をやります。目を閉じて、 頭の中のテレビに、この円を思い浮かべます。手を軽く当てて もいいです。その円の中に、温かいきれいな血液がドクドクと音を 立てて流れていく、当てている右の掌からは気がビユーと入っていく、 そうイメージします。すると頭の中に描いた円が光り始めます。

細胞の一つひとつが元気になって輝きます。手から気を出すという 『身』、ドクドク流れる時の音『口』、そして目を閉じてのイメージ力『意』。 三密加持で細胞のーコーコが元気になる状態を作り出しました。 では目を開けて、円の中をつねってみてください。ぐっとつねって、 もう一方の腕の同じ部分をつねって痛さを比べてみてください。 全然違うはずです。また、円の中と、円の外を同様につねって みてください。こちらも痛みに差があります。円の中はあまり痛くない でしょう。これは脳を三密加持で使って出来たことです。

高度な自己暗示と考えてもいいでしょう。この簡単な実験が、実は とても素晴らしいことを教えてくれます。ヨーガの行者が、針の上に 寝たり、針を刺したりするのと同じ理屈です。しかもヨーガの行者が 何年も何年も苦行を重ねてようやく出来るのに対して、一瞬で できるようになったのですから、これはすごいことです。

人間には、こんなに高い能力があるという実証、「飛べば見える」 一何だか実感できたでしょう。今の実験を科学的に説明すると、 脳の中には『エンドルフィン』という、痛みを自分でコントロールする 物質があるのですが、それを自分で自在に出すことが出来たのです。 三密加持という方法で、自分の体をコントロールしたのです。 痛みを外そうとイメージする時に、大切なポイントがあります。 「痛くない」、こういう言葉を使うのは、まずいやり方です。痛くない、 い・た・く・な・い、こう言った瞬間に、脳は「痛い」を作り出します。 そして作りだした「痛い」を取り除こうとします。ですからうまく いかないのです。マイナスの言葉は使わない、これがイメージを 作る時の鉄則だ、と思ってください。否定の言葉は使わず、 きれいな血液が音を立てて流れ出ている状態、細胞がどんどん 元気になっている状態を思い浮かべます。それを『身・口・意』で やれば脳が一点に集中します。三密加持がうまくなれば、意識の エネルギーを人に伝えることもできます。先日、痛風の患者さんを 診察していて、私の脳を三密加持で集中させ、患者の痛くて たまらない箇所にきれいな血液が流れ込み、どんどん細胞が 元気になる状態をイメージしました。患者は「痛くなくなりました」と 驚いていました。

これは、三密加持の基本を訓練してもっとレベルアップさせると、 できるようになります。夜寝る時に真っ暗にして、目を開けて やってもよいです。脳の働きを一点に集中させておき、次に集中して いる対象と自分の意識の間を外すと、意識を『空』無の状態、全く なにも考えない状態、澄み切って、上下・前後・左右という全方位を 認識する状態がやってきます。この状態で何かを確信もって思うと、 そうなります。特に自分の体に関しては、脳が納得していますから、 非常に効果的に意識の働きかけができるのです。私は医者ですが、 人々がみんなこうなるともう医者はいらなくなりますね…… いないほうがいいのですが。みんなが自分の体をコントロールして 治せるようになればいいのですし、元気に越したことはないですから。 三密加持をやっていると雑念が浮かびません。普通、雑念は言葉で 浮かぶか、イメージで浮かんできますが、両方を一点に集中しますから、 浮かびようがないのです。アタマがものすごくよくなります。三密加持は まだまだ奥が深いのですが、まずは基本形をしっかりマスターしてください。

空海による意識の進化論

三密加持で意識のエネルギーを使うことを覚えると、進歩の旅に出ます。 その時の意識進化の行程表を、空海さんは『秘密曼陀羅十住心論』と して残してくれました。それによると、意識進化の段階には10のステップ があります。

第1段階は『異生羝羊心』(いしょうていようしん)。羝羊は雄羊のことです。 食欲と性欲という物質的なものに支配され、その他の因果の理法など 哲学的な理解や認識に興味のない段階です。本能的な欲求にのみ 従う段階です。

第2段階は、『愚童持斎心』(ぐどうじさいしん)。迷信の段階です。 道徳に目党めた心で、本質的な理解や認識はないものの、 悪いことはやめておこう、という心の働きです。

第3段階は、『嬰童無畏心』(ようどうむいしん)。嬰童、すなわち、 みどり子が母親の胸に抱かれて、恐れがなく安心している状態です。 宗教や教義に心の安らぎを見出し、母なる人、たとえば教祖などの存在を 必要とします。これは見えている人にぶらさがっている状態です。

第4段階は、『唯蘊無我心』(ゆいうんむがしん)。蘊という人間を なりたたせている要素によって人間は出来ており、永遠不滅の 自我はないということです。 小乗仏教で、釈迦尊の教えを知った段階です。 いろんなことを勉強していく過程で、みんなが同じことを言っている ことに気付く段階でもあります。

第5段階は『抜業因種心』(ばつごういんじゅしん)と言って、業と因を 抜く、つまり業(カルマ)と苦を生起させる因子を抜こうと努力を開始した 心の階段。自分も飛んでみたいと思って訓練を始める段階と言える でしょう。

第6段階は、『他縁大乗心』(たえんだいじょうしん)です。小乗から 大乗に進みました。自分自身の苦の原因を認識し、それを抜く訓練を すると認識力が高まり、一定の力を持つようになります。大乗で 「利他の行をなす」と言いますが、縁にふれて困っている人がいたら、 こうしたらいいですよ、とアドバイスできる心の段階です。

第7段階は、『覚心不生心』(かくしんふしょうしん)。ここで言う心とは、 超意識、事物を生み出す根源の心という意味。その心を自覚すると、 輪廻転生の浮沈の苦から抜け出て、大きな進歩の大河に乗ることが できます。ここら辺りはもうすごい段階ですね。

第8段階です。『一道無為心』(いちどうむいしん)。一道、つまり 天地自然の理がよくわかって、自分のものとして体得されると、 無為、すなわち図らう心がなくても、ものごとが意のままになる 段階です。

第9段階まできました。『極無自性心』(ごくむじしょうしん)。何となく、 文字から意味が推測できます。極無とは、なにもないこととは違います。 無尽蔵の無、総てを生み出す根源です。無限というのも同じです。 心の状態がそうなると、インドの聖者サイババのように、空間から 物質を取り出すことも可能なわけです。

最終段階、第十住心が・『秘密荘厳心』(ひみつそうごんしん)。 秘密というのは、言葉に表現できないということ。ここまでくると、 善も悪も、正も邪も、美も醜も、過去も未来も、総てを肯定して、 光り輝いている心の段階、そう私流に解釈しています。 飛ぼうと思って訓練を始めた人は、もう第5段階まできています。 これはすばらしいことです。

ホイットンによる魂の5段階の発遣

カナダのトロント大学に、ジョエル・ホイットンという精神科の教授が います。この人はとんでもない病気、不治の病を治す名医と 言われていますが、その治療法には催眠を使います。 催眠をかけて、どんどん年齢を遡ると、生まれる前のことを 思い出す人がいるそうです。心身のトラブルには、前世のトラブルが 深く関係しているそうで、それを思い出すことで病気を治すのです。 トロント大学は、日本で言えば東大のようなところです。 その権威ある大学の教授が、そういうことをもう20年も研究して います。驚かれる方もいるでしょうが、実際、そういう時代に 入っている証です。その彼が、人間というのは、ある段階を追って 勉強していくものだと言っていますが、その発想が非常に空海に 近いものです。ホイットンの場合、魂の進化段階を5つのプロセスに 分けています。

1、唯物論の段階。
この世はモノしかない。 だから金とか権力、名誉というモノに一生懸命になるんだ。 人間はモノで楽しめるという段階です。

2、迷信の段階。 空海のいう2段階目『愚童持斎住心』の段階。 良いことをしようという積極的な段階ではないけれど、悪いことは やめようという道徳心の目芽えの段階です。

3、根本主義の段階。
キリスト教の聖書のままに生きようとする段階です。
目に見える教義を必要としているのです。

4、哲学の段階。
もっといろんなことを勉強することで目覚めることができるのを 自覚する段階です。飛んでみよう、そういう心です。

5、迫害の段階。
聖書に「義によりて迫害されるは幸いなり」という一説がありますが、 その段階です。邪魔が入ろうと、どうしようと、魂の進化を求めていく 段階です。宗教、文化の違いによる表現の違いはありますが、魂の 進化、意識の進化について、洋の東西を問わず、また宗教、医学と 方法論は違っても、同じような認識に達した先輩方の考えを虚心に 受けとりたいものです。

具体性の世界、白由な精神

今までの話には、二つのポイントがあります。 一つは、空海の残した三密加持を使うとアタマがぐんとよくなりますよ、 飛んでみませんか。もう一つは、難解だ、難解だと言われている空海、 密教も、観念論で終わるのではなく、具体的な方法論を読みとっていく 発想の仕方です。こうやって空海さんもアタマをよくしたのかな、では 自分もやってみよう、と。三密加持については基本をお伝えしましたから、 眠る時などに訓練して、どんどん脳の集中力を高めてください。 イメージが鮮明に結べるようになり、アタマがクリアーになります。 観念論の背景には、「権威主義」があります。「信じなさい」の世界です。 あなたは飛べなくてもいいから、とりあえず飛んだ人の話を信じなさい。 これに対して、具体的な世界は『自由』です。自由に組み立てることが できます。自分自身が飛んでいけます。飛んだ人の話を信じる 必要はありません。自分が飛ぶのですから。「飛べば見える」。 カッコいいです。やればわかる世界です。飛んだ世界が『サマディー』、 それはヨーガの最高目標にされている境地ですがヨーガの根本教典 には、どうやったらサマディ!の境地に入れるかは、書いてありません。 向こうからやってくるのを待つだけです。それを空海さんは『三密加持』 として我々に残してくれました。実務家として方法論を展開、そして 実践したのです。私たちが空海に学ぶところは、本当に遥かな 大きなものですが、その発想の仕方、その自由な精神が核心では ないか、と思うのです。飛べは見えるー言葉そのままです。

リンク集へ戻る

Home 開催日 掲示板 E-mail